2023.02.03 ビジネススーツ ジャケット
多くの方は、人から見られるスーツの「表地」には注目をしても、なかなか「裏地」にまで気を配る方は少ないかも知れません。
ですが、スーツの仕上がりを左右するのは「裏地」と言ってもいいほど、ファッション面だけでなく、機能面でも、そして信頼を得るマナーの為にも、非常に重要な存在です。
今回は、スーツの裏地について知識を確認していきましょう。
スーツの裏地の役割と聞いて何が一番に思い浮かびますか?オシャレ感を演出できる?オリジナリティーが上がる?などのファッション要素もちろんそれもありますが、実はスーツの裏地には本来の役割が4つ隠されていますので見てみましょう。
スーツの着こなしでは、下着を見せる事はマナー違反であり、相手に不愉快な気持ちを与える事は許されません。
その為、表地の種類にもよりますが、薄い繊細な生地や薄い色などは特に裏地をつけていないと、ジャケットやパンツから下のシャツや下着のシルエットや色が透けて見えてしまいます。その為、裏地は透け防止の効果を持っています。
また、裏地が付いていても透ける場合は下に合わせる物に問題があるのかもしれません。事前に一度試着して確認しておきましょう。
※参考画像は裏地の無いシャツジャケットです。
涼しさを求めるには最高ですが、着用時に表から見てインナーが透ける表地は避けましょう。
こちらも意外と知られていない点として、スーツの表からの見た目と裏地とは関係ないと思うかもしれませんが、スーツは表生地と芯地やパッドなどの表からは見えない構造があってこそ美しいシルエットを保っています。そして、裏地もその中の一つであり、重なりの薄い所では、表地と裏地のみでスーツ特有の重厚感を作る意味でも重要の役目をはたしています。
多くのスーツの表地に使われる ウール(羊の毛) モヘア(山羊の毛) または化繊や麻など、吸水性が低い表地を使用する事もあります。そこで裏地を一枚付ける事によりムレを防ぐ効果があります。さらに通気性の高い裏地を選ぶことで、よりその効果を高めることもできます。
また、スーツの表地によってはチクチクやザラザラなど表地の不快感を内側に伝え難くするカバーの役割も持っています。
スーツは、必ず下にシャツやニットなどのインナーを着て着用する物です。その時に裏地がなければ、インナーが抵抗になりスムーズ肩や腕、パンツでは膝を動かす事が出来ません。
そこで摩擦抵抗の少ないサラサラの裏地をつけることで、滑りを良くする効果が得られます。
またこの他にも、裏地の素材によっては、冬場に発生する静電気の防止にも効果があります。
着心地の選択肢として裏地の付け方には、大きく分けて次の3つの種類があります。
季節や体質、見え方の違いを知って、自分に適した裏地の付け方を確認してみましょう。
ジャケットの裏面全体に裏地をつける仕様を、総裏と呼びます。特にこだわりがない場合は、この総裏で仕上げることが基本です。着脱のしやすさ、ファッション性、快適性など、裏地のメリットを余すことなく味わえます。
裏地が全面に付く事で、保温性が高くなる事から、秋から冬に向けたスーツにもおすすめです。
上着を脱いで裏返しの状態でも上着の裏側の縫い代など見える事がなくカバーされていますので、見た目もシンプルです。
背中の裏地を途中から抜いたものが、背抜きです。上着の重量が軽くなります。
また、背中側の通気性が高まることがメリットです。
春から夏の時期向けて、また暑がりの方にもおすすめの仕立てです。
デメリットとしては、上着の内側の縫い代が見えやすくなる事や素材の薄さや色によってはインナーが透けてしまう事もありますので、表生地を見て判断しましょう。
背抜きとも間違われやすい仕立ての半裏ですが、背中に加え、脇の下の裏地も抜いた仕様が、半裏です。
背抜き以上の軽量化と脇の下も一重となる事でさらに涼しい着心地になります。
ですが反対に、シルエットの崩れや快適性を失う事も出てきますので、表の生地との兼ね合いと合わせて、一番に求める物が何なのかを考えて取り入れてみて下さい。
裏地にも、表地と同じようにいくつかの素材があります。目的に応じて選びましょう。
一般に多く普及している裏地が合成繊維です。
一番のメリットは購入時には嬉しいコストの安さと、釣り糸などにも使われる高い耐久性です。
一般的には、制服など耐久性を必要とする洋服は合成繊維の裏地を使用している確率が高くなります。
デメリットとしては、通気性が低く、湿気がこもりやすくなる点と繊維の丈夫さからくる硬さ、静電気の発生のしやすさなどの合成繊維特有のデメリットもありますが、最近の素材では、いちじるしく悪い物は流通していませんので安心して選んで大丈夫です。
高級スーツにはシルクやビキューナ(超希少なラクダ科の動物の毛)など天然の素材を使用した物があります。
肌触りはしなやかで軽く、見た目の高級感はもちろん、高級スーツに求められるモッチリとした立体感も天然素材ならではの裏地です。
ただし天然繊維の裏地は、品質にもよりますが、表生地と同等のコストか、それ以上の物も存在する事と、他の素材に比べると耐久性が低い事から流通量は多くありません。
ですが、贅沢な気分をスーツに求めるのら最高の素材です。
上記の二つの素材のいいとこ取りとなるのが再生繊維の裏地です。
天然素材をそのまま使わず、加工して作った繊維のことです。代表的な素材にレーヨンやキュプラなどがあります。肌触りの良さや高級感といった天然繊維の良さと、量産加工のしやすさや快適性の高さなど合成繊維の良さの、両方を兼ね備えた繊維です。
その中でもキュプラはコットンリンターという植物繊維ですので、吸汗性が高く、静電気が起きにくいという事もあり、スーツの裏地では一番人気です。
また、キュプラの中でも折り方でサテンの様な、より光沢の出る物や夏用にメツシュ状に織り上げた再生繊維の裏地を取り扱うお店もありますので、お店に確認してみましょう。
※参考画像はストライプ柄ですが、もちろん無地の裏地も多く流通しています。
裏地をファッションとして楽しむのであれば趣味の世界でいいのですが、
スーツの基本の理屈で考えると、表地と同色、もしくは少し明るい程度をお勧めします。
理由としては一番に、この条件であれば表から透ける事は有りませんので悪目立ちする事も有りません。
少し裏地でスーツのニュアンスを変えたいのであれば、その他のシャツやタイなどとコーディネートする時に邪魔になりにくい無彩色のグレー系がお勧めです。
また、ベスト付きスーツで考えられているのであれば、ベストの背中の表側も一般的には上着の裏地と同じ裏地が付きますので、コーディネートの邪魔にならない色を選んでおく事をお勧めします。
ですが、裏地の色が選べるのであれば、自分好みの色を入れるのも粋な遊びの一つです。
スーツを末永く愛着の持てる色を選んでください。
裏地の基礎知識を見てきました。いかがでしたでしょうか?
スーツの中で忘れられがちな裏地ですが、実は裏地にもこれだけの違いや機能が備わっており、その他のスーツのディテールや着こなしにも意味が存在するのがスーツです。
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